基本的人権の尊重についてまとめています。
基本的人権の尊重とは
基本的人権と個人の尊重は、日本国憲法では、「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は、過去幾多の試練に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである」(97条)と規定している。
ここには、
- 憲法上の基本的人権は、人類の長い歴史のなかで確立されてきたものであること
- 人類にとって大切なもので永久不可侵であることと
が示されている。
日本国憲法における最も基本的な原則
日本国憲法における最も基本的な原則が、基本的人権の尊重という考え方である。人間であれば当然に持っている権利としての基本的人権利は、個々の人間が尊厳ある存在であるという前提の上に立っている。
憲法は、「すべて国民は、個人として尊重される」(13条)と示している。またそれに続く「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」(13条) という規定は、憲法における基本的人権の中核といわれている。
個人の尊重
個人の尊重という考え方から導かれる権利として、自己決定権がある。これは、一定の私的事項について他者の権力的な干渉や介入を受けずに、みずから決定できる権利である。たとえば尊厳死やインフォームド・コンセント(医師による十分な説明と患者や家族の同意)には、この権利が密接に関わっている。
日本国憲法の中の平等権
平等権・平等に生きる権利についてまとめています。個人が尊重される前提として、人間の平等な関係が必要となってきますが、身分や性、人種などによる差別のない社会に生きる権利を平等権という。
日本国憲法では、「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」(14条)と規定しており、社会生活上のあらゆる差別を禁止している。
- 男女の本質的平等(24条)
- 選挙権の平等(44条)
- 教育の機会均等(26条)
についても規定し、平等な社会の実現をめざしている。しかし現実には、さまざまな社会的不平等が存在しており、その解決が望まれている。
社会的不平等
- 女性差別
- 部落差別
- 民族問題
- 在日問題
- 障害者差別
- 高齢者差別
などが残されている。
女性差別
その一つに女性差別がある。国連は、1979年に女性(女子)差別撤廃条約を採択した。日本はこの条約を1985年に批准したことにより、国内法を整備することになり、その一環として
- 男女雇用機会均等法(1985年)
- 育児休業法(1991年)
- 男女共同参画社会基本法(1999年)
を成立させ、社会における男女間の性別による差別的取扱いの解消がはかられている。
その一方で、セクシュアル・ハラスメント(セクハラ・性的いやがらせ)が社会問題となり、1997年に改正された男女雇用機会均等法で、セクハラ防止について事業主に配慮義務を負わせた。また、法的な改善だけでなく、偏ったジェンダー 意識(歴史的・社会的・文化的につくられた性別観念)に基づく性別役割をどのように解消していくかも問われている。
- 女性運動…1920年平塚雷鳥が新婦人協会を結成。女性の政治活動の自由、高等教育の拡充などを求める。
部落差別
部落差別では、江戸時代に「えた・非人」などとよばれた人びとの身分が固定されていた。これは封建社会の身分制度に端を発する社会的差別である。明治時代に入り、1871年の太政官布告(解放令)で身分は平民と同様にされたが、差別は社会的に改善されず、全国水平社が結成(1922年)されて、差別される側の人びとみずからの解放運動がはじまった。
部落差別の問題は同和問題ともよばれ、1960年代から同和対策審議会答申に基づいた行政側からの取り組みも進められたが、就職や結婚などにおける差別的な事件が現在でも発生している。
民族問題
アイヌ民族は、明治政府が制定した「北海道旧土人保護法」 (1899年)によって同化政策を受けてきたが、1997年にアイヌ民族の自立、人権擁護などを目的に「アイヌ文化振興法」が成立し、アイヌ民族が固有の民族として法的に位置づけられた。同時に「北海道旧土人保護法」 は廃止されたが、「アイヌ文化振興法」には、アイヌ民族自身が求めている「先住権」など民族の権利にかかわる項目は盛り込まれておらず、まだ課題を残している。
在日問題
在日外国人に対する人権侵害が指摘されていた指紋押捺制度は、1999年に全面廃止された。また公務員の要件とされてきた日本国籍を必要とするという国籍条項に関しても、現在では多くの地方自治体において条件つきで撤廃されつつある。
その他の問題
このほかにも、障害者差別・高齢者差別など、さまざまな差別問題が現代の日本社会に存在しているため、私たち一人ひとりが、人権意識を向上させることによって、差別を許さない社会を実現することが大切である。
自由権とは
自由権とは、個人が国家権力の不当な干渉を受けることなく自由に生きる権利のことで、日本国憲法が保障する自由権は、
- 人身(身体)の自由
- 精神の自由
- 経済活動の自由
の3つに大別にされる。
人身(身体)の自由
人身(身体)の自由は、国家権力によって不当に身体の自由を奪われない権利のことである。明治憲法の下で、国家権力によって不当な逮捕や投獄拷問などの人権侵害がしばしばおこったこともあり、日本国憲法では人身の自由について細かく規定している。
刑罰
「奴隷的拘束・苦役の禁止」(18条)で、人格を無視した非人道的な自由の拘束を禁止し「法定手続の保障」(31条)において、「法律の定める手続」なしに、生命や自由を奪うなどの刑罰は科を処罰するためには、あらかじめ法律によって犯罪と刑罰とが規定されている必要がある
という罪刑法定主義の原則による。31条の規定が罪刑法定主義の憲法上の根拠。
その上で、逮捕や住居侵入・捜索・押収には、
- 現行犯以外は裁判官の発行する令状を必要とするという令状主義 (33条・35条)
- 拷問や残虐な刑罰の禁止(36条)
- 黙秘権の保障 (38条)
などによって、犯罪容疑者や刑事被告人の人権が不当に侵害されないよう幅広い面で規定している。
しかし、警察の留置場が監獄がわりに利用される現在の代用監獄制度は、自白の強要につながり、冤罪の温床になっているのではないかという問題点が指摘されている。
冤罪
現実に、今なお冤罪事件はなくならず、再審制度によって死刑を免れ、無罪になった例も珍しくない。犯罪容疑者や刑事被告人の人権に関して、いっそうの配慮が必要であろう。
死刑
究極の刑罰として、死刑制度の問題がある。国際的に死刑は残虐な刑罰とされるなか、1989年の国連総会で死刑廃止条約が採択され、死刑制度を廃止する国が80カ国を超えたが、日本はこれに反対した。
なお、日本では日本国憲法は残虐な刑罰を禁止(36条)していること、無実の人を処刑してしまう危険性があること、国家による合法的殺人は論理的に矛盾すること死刑制度によって必ずしも凶悪犯罪はなくならないことなどの理由から、死刑制度に反対する人びともいる。また、国際的な人権救援団体であるアムネスティ・インターナショナルは、世界各国の死刑制度の廃止を訴えている。
精神の自由
精神の自由は自明のことのように考えられているが、これについては第二次世界大戦前に個人の内面の思想までも統制されたことに対する反省がある。
思想・良心の自由
思想・良心の自由」(19条)は、精神の自由に関して中心となる規定とされ、それが「信教の自由」(20条)や「学問の自由」(23条)、さらに外部に向けて表現されたものとして「集会・結社・表現の自由」(21条)につながっている。
信教の自由
信教の自由に関しては、国の宗教活動の禁止(20条3)と特定の宗教団体に対する公金支出の禁止(89条)という形で、政治と宗教を分離(政教分離)している。政教分離に関して争われた裁判には、津地鎮祭訴訟や愛媛玉串料訴訟がある。
表現の自由は、場合によっては他人の権利とぶつかることもあるため、必要最小限度の制約を受けることもある。そのなかで、憲法は表現の自由を制限する検閲を禁止し、通信の秘密を保障(21条2)している。
1999年に犯罪捜査のための通信傍受法が成立したが、この法律は、通信の秘密を保障した憲法の規定やプライバシー保護の観点から、多くの問題点があると指摘されている。
経済活動の自由
経済活動の自由は、近代憲法のなかで、財産権の保障を中心に規定されてきた。資本主義経済が発展してきたのも、経済活動の自由を前提としている。日本国憲法でも、「居住・移転・ 職業選択の自由」(22条)と「財産権の保障」(29条)にその規定があるが、いずれもが公共の福祉の立場との適合を求めている。現実に、独占禁止法・土地収用法・農地法・都市計画法などの法律に基づいて、さまざまな規制がおこなわれている。ただし、公共のために、国民の土地を収用するような場合には、正当な補償をおこなうことが前提とされている。
社会権
基本的人権の内容は、18世紀までは国民が国家による不当な支配から解放され、自由をめざす自由権が中心であった。このころの国家は、個人の権利に干渉すべきではないとされ、おもに治安の維持や国防などを任務とする夜警国家が理想とされた。
- 夜警国家…政府の役割を国防や治安の維持など必要最小限なものとする国家
資本主義経済の発達とともに貧富の差が拡大してきたことから、20世紀に入ると、国民が国家に対して人間らしい生活を要求する社会権(社会権的基本権)の必要性が主張されるようになった。このため、現代では治安の維持や国防だけでなく、社会的弱者の救済や医療・福祉・教育の充実を任務とする。福祉国家がめざされている。
生存権
日本国憲法では、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」(25条1項)として、生存権が規定され、国の責任としての社会福祉社会保障、公衆衛生の向上および増進が定められている(25条2項)。これらの規定に基づいて、生活保護法や健康保険法、さらに介護保険法など各種法律が制定・施行されている。
第25条(1)の規定については、国家に対して生存権の保障を、政治的・道義的な努力目標として義務づけたものにすぎず、国民に権利を保障したものではないとする説と、この規定は法的な権利を認めたものなので、これを根拠に生存権を主張できるとする説(法的権利説)があり対立している。
労働基本権
資本主義社会においては、労働者は使用者にくらべると弱い立場にある。そこで日本国憲法では、労働者が人間らしい生活ができるように労働者の権利を保障している。
憲法が定める労働基本権は、勤労権(27条1)と労働三権(28条)からなっている。
労働三権
労働三権とは、労働者がその立場を強化するために、
- 労働組合を結成する権利(団結権)
- 労働組合が使用者と労働条件について交渉する権利(団体交渉権)
- ストライキなどの団体行動をおこなう権利(団体行動権または争議権)
の三つをいう。こうした労働者の権利を具体的に保護するためのおもな法律として、労働基準法・労働組合法・労働関係調整法があり、労働三法とよばれている。
労働基準法
労働基準法は、労働条件は労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすものでなければならないとし、労働時間・休日・賃金などの労働条件の最低基準を定めている。この法律で定める労働条件の基準は、最低のものであの基準は、最低のものであるから、この基準を理由に労働条件を低下させてはならないし、向上するように努めなければならないとしている。
労働組合法
労働組合法は、労働組合を結成することのできる権利と団結権を保障し、さらに労働組合が賃金などの労働条件をめぐって使用者側と交渉して労働協約を締結するなどの団体交渉権を規定し、交渉の場面ではストライキなどの争議をおこなうことのできる権利を団体行動権(争議権)として認めている。
労働関係調整法
労働関係調整法は、労働者のストライキ、サボタージュ(怠業)に対し使用者側が対抗措置としてロックアウト(作業所閉鎖)をおこなうなど労使間の対立が激しくなり、当事者による自主的な解決が困難になったときには、労働委員会が斡旋・調停・仲裁によって争議を解決させることなどを定めている。
現在、日本の公務員は国家公務員法や地方公務員法によって、争議権をはじめとする労働基本権の一部が制限されている。公務員は、全体の奉仕者であり、公共の福祉のため一般の労働者とは立場が違うとする考え方である。その一方で、公務員にも、他の労働者と同じ労働基本権が認められるべきだとする主張もある。
教育を受ける権利
人間らしい生活をするには、知識や技能を身につけることが必要不可欠である。日本国憲法は、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を保障した上で、義務教育を無償としている(26条)。教育基本法や学校教育法などの法律によって教育の機会均等が保障され、さらに保護者にはその保護する子どもに教育を受けさせる義務を負わせている。
参政権
日本国憲法は、人権保障を確実なものするために、国民が国政にさかできる参政権や国に一定の行為を請求できる国務請求権(受益権)を保障しています。そのあたりについてまとめています。
国民が政治に参加する権利が、参政権である。日本では、1925年に男性のみの普通選挙が導入され、戦後の1945年には男女の普通選挙が導入された。普通選挙によって、政治的な平等を確保することができたといえる。
日本国憲法における参政権は、選挙権・被選挙権のみであると考えられがちですが、直接国民が国家の政治に参加できる制度も存在する。
- 憲法改正時の国民投票(96条)
- 特定の地方公共団体にのみ適用される特別法の住民投票 (95条)
- 最高裁判所の裁判官に対する国民審査(79条)
これらは、議会制民主主義を補完する制度として採用されている。
議会制民主主義
- 議会制民主主義…ルソーは、人民主権による直接民主制を理想としたが、現代国家では間接民主制を具体化した議会制民主主義(代表民主主義代議制)に基づく議会政治(代議政治)が一般的である。これは民主的な選挙により、国民のなかから選ばれた議員で構成される議会を通じておこなわれる政治。
参政権は本来、日本国民に与えられた権利であるが、近年、定住外国人に対して地方公共団体の長や議会議員の選挙に際して、参政権を付与すべきかどうかが議論されるようになっている。
国務請求権
基本的人権が現実に守られるためには、国や地方公共団体に人権を実現させるための権利、すなわち請求権が必要である。憲法ではみずからの権利や自由が侵害されたと思われるときに、裁判所で裁判を受ける権利(32条)を保障している。これ以外にも、
- 国や地方公共団体に人権侵害に対する苦情やその是正などを表明する請願権(16条)
- 公務員によって権利を侵害されたときの国家賠償請求権(17条)
- 国家権力によって抑留や拘禁を受けた者が無罪になったときの刑事補償請求権(40条)
を保障している。
基本的人権についてのまとめ
- 基本的人権…侵すことのできない永久の権利。
- 人権の保障…一人ひとりの個性を尊重し人間らしくあつかう「個人の尊重」の原理(憲法第13条)に基づく。法の下の平等(憲法第14条1項)とも結びつく。
- 子ども(児童)の権利条約…1989年国際連合で採択。生きる権利、育つ権利、守られる権利、参加する権利。
人権の条文
「個人の尊重」の原理(憲法第13条)と法の下の平等(憲法第14条)が基礎。
- 第13条…すべて国民は、個人として尊重される。 生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限の尊重を必要とする。
- 第14条…すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地(もんち)により政治的、経済的又は社会的関係において差別されない。
コメント