半導体や電気自動車、再生可能エネルギー機器など、次世代産業を支える素材としてレアアース(希土類元素)の重要性が急速に高まっています。しかし、世界供給の多くを中国が握る現状は、日本にとって資源安全保障上の大きなリスクでもあります。このような中、日本国内でレアアース関連の技術開発・調達戦略を進める企業群が、投資家の注目を集め始めています。
本記事では、「日本のレアアース関連銘柄」にフォーカスし、テーマ背景、国内政策・技術動向、注目企業、および投資リスクまでを網羅的に解説します。これからレアアース株へ注目しようという方にも、既に保有している方にも役立つ情報を提供します。
レアアースとは?注目が集まる理由と日本が直面する課題

レアアース(希土類元素)とは、ネオジムやジスプロシウムなど17種類の元素の総称で、スマートフォンやハイブリッド車、風力発電機、半導体装置など、最先端の電子機器やエネルギー関連製品に欠かせない素材である。これらは磁石、蛍光体、触媒などの用途で利用され、現代産業を支える“縁の下の力持ち”と言える存在だ。
現在、世界のレアアース供給の約7割以上を中国が占めており、地政学的リスクが高まる中で「脱中国依存」が国際的な課題となっている。特に日本は、製造業・輸出産業の多くが高性能磁石や電子部品を必要としており、レアアースの安定供給が経済安全保障に直結する。中国による輸出制限以降、日本政府や民間企業は調達先の多角化やリサイクル技術の開発を進めてきた。
さらに、EV(電気自動車)や再生可能エネルギーの普及が進むにつれて、レアアース需要は今後も増加が見込まれる。一方で、採掘に伴う環境負荷やリサイクルのコスト、資源外交の複雑化といった課題も山積している。こうした背景から、レアアースの確保や再資源化に関わる日本企業の動向は、今後の経済と投資の両面で大きな注目を集めている。
豊田通商(証券コード8015)

総合商社で、レアアースの調達から流通まで関わるグループ会社を持ち、インドや他国で生産・調達ルートを構築。脱中国を進める資源多角化戦略も見えており、電動車やモーター用途の磁石やセンサー材料の調達能力を強めれば安定供給品を確保できる。商社ならではのネットワークと交渉力が強み。短期的には資源価格や為替・地政学リスクの影響を受けやすいが、中長期的には安定キャッシュフロー+戦略ポジションの利がある。
豊通マテリアルを通じてレアアース・レアメタルの調達・販売を行う。廃触媒や使用済み自動車からのレアアースリサイクル事業を展開し、環境負荷低減と資源有効利用を実現。非鉄金属・鉄鋼原料取扱商社としての強固なネットワークを活用。
住友金属鉱山(証券コード5713)

非鉄金属・採掘・精錬・分離・リサイクルなどを手がけ、希土類元素(レアアース)や他の貴金属を取り扱う。政府支援やリサイクル技術を活用して、使用済み磁石や電子機器から希土類を回収し、再資源化を進める可能性が高い。価格上昇や供給制限の局面では利幅改善が期待できる。設備投資・環境対応コストが重くなる可能性や資源価格の振れ幅には注意が必要。
EVバッテリー向け水酸化ニッケル・ニッケル酸リチウムなどの電池材料を製造。フィリピンなど海外でのニッケル鉱山権益を保有し、原料調達から製品化までの一貫体制を構築。粉体材料などの機能性材料事業でレアアース需要に対応。
三菱マテリアル(証券コード5711)

精錬・冶金・材料加工・リサイクルまで広く扱う素材企業。レアアースやレアメタル素材を扱う能力があり、非鉄金属分野で上流から加工までのバリューチェーンを持つ。産業用途向けの機械部品・電子部品材料としても強みを発揮できる。素材価格の影響は受けやすいが、技術力と加工能力があれば付加価値を付けて利潤改善が期待できる。
廃棄物からのレアアース回収・リサイクル技術に強み。使用済み電子機器や産業廃棄物から貴金属・レアメタルを回収する都市鉱山事業を展開。金属製錬技術を活かした資源循環型ビジネスモデルを確立。
DOWAホールディングス(証券コード5714)

金属精錬・環境リサイクル・電子材料などを手がける企業。使用済み電子機器や自動車部品からレアアースや貴金属を回収する都市鉱山リサイクルや分離精製技術を持つ。循環型経済やリサイクル重視の政策追い風もあり、素材供給リスク低減にも寄与できる。リサイクルから高純度素材を供給できればコスト・環境双方で優位。設備投資や原料確保コストの増加には注意。
廃棄物からのレアアース・レアメタル回収技術に優れ、環境リサイクル事業でトップクラス。使用済みハイブリッド車バッテリーからのレアアース回収や、電子基板からの貴金属回収など、都市鉱山開発の先駆者として高度な技術を保有。
信越化学工業(証券コード4063)

化学・素材大手で、磁石材料や高機能磁材など希土類を活用する部材・化学材料の開発能力を持つ。研究開発力と製造技術が強く、重希土類を削減した合金設計や粉末磁材の高品質化、リサイクル技術などで競争力を維持しやすい。EVモーターや産業機器用途など高付加価値用途での需要拡大に乗る可能性が高い。景気変動には敏感だが財務基盤が強く安定性あり。
レアアース永久磁石の製造で世界的な地位を確立。省レアアース・重希土類フリー磁石の開発に注力し、中国依存脱却を推進。EV用モーター、風力発電機向けの高性能ネオジム磁石で競争力を持つ。大型製造設備を保有。
TDK(証券コード6762)

電子部品・磁性材料のグローバル企業。ネオジム磁石や他の希土類磁石部材で高いシェアを持ち、電気自動車モーターなどの用途に強み。希土類価格や為替変動、素材調達コストが利益を圧迫しうるが、技術開発により重希土類使用量を低減した合金や高性能磁性材料を提供できれば競争優位に立てる。世界的な電動化トレンドに追い風。
レアアース磁石を使用した各種電子部品の開発・製造に強み。HDD用磁気ヘッド、センサー、アクチュエーターなどでレアアース材料を活用。省レアアース技術の開発にも注力し、M&Aによる磁石事業の規模拡大も視野。
古河機械金属(証券コード5715)

非鉄金属・精錬・加工を行う素材企業。レアアース回収装置やレアアース泥の回収システムなど、資源探査・回収技術にも取り組んでおり、深海資源開発などレアアース関連テーマでも注目。非鉄金属全体の加工能力を活かして、希少素材を製造・供給できる可能性。価格上昇局面では利幅改善が期待できるが、設備更新や投資コストおよび資源価格変動には留意。
銅製錬プロセスで発生する副産物からレアメタル・レアアースを回収。長年の非鉄金属製錬技術を活かした資源回収ノウハウを保有。電子材料事業でレアアースを使用した機能性材料を製造し、幅広い用途に対応。
三井海洋開発(証券コード6269)

海洋開発・深海探査の技術企業。深海底からレアアース泥を回収する探査技術・掘削技術に関与しており、政府プロジェクトとの関わりも深い。南鳥島沖などの海域でレアアース資源開発に関わる可能性があり、将来的な資源確保に直結するポテンシャルを持つ。短期はリスク・コストが大きいが成功すれば大きな収益源となる可能性。
深海資源開発技術を保有し、将来的な海底レアアース鉱床開発に対応可能。南鳥島沖のレアアース泥鉱床の採掘プロジェクトなど、海洋資源開発プロジェクトへの参画可能性。海洋エンジニアリングの豊富な経験を活かせる分野。
アルコニックス(証券コード3036)

非鉄金属・レアメタル/レアアースを含む素材卸売や原材料の輸出入販売・国内流通・加工を手がける卸商社。レアアースなど希少金属を扱い、原材料供給や加工素材としての役割を担っている。卸+加工の両面から需給に関与でき、素材価格上昇期や供給制約期に利益を取りやすい。中型銘柄ゆえ流動性・株価変動リスクはあるが、テーマ性と成長余地に期待。
レアアース・レアメタル専門商社として強固な調達ネットワークを構築。中国をはじめとする世界各地からの調達ルートを確保。顧客ニーズに応じた多様なレアアース製品を供給し、市場変動に対応した柔軟な取引を実現。
松田産業(証券コード7456)

資源・特殊素材を扱う企業。レアアース・レアメタル関連の取り扱いや加工、資源スクラップや原材料の取引に関与している銘柄として市場テーマでも取り上げられている。東証テーマ銘柄リストでもレアアース関連銘柄に挙げられており注目度がある。中小や中型銘柄のため値動きが大きく、テーマに敏感に反応しやすい。成功すれば高いリターンも見込めるが、需給変動・資源価格・業績変動のリスクもある。
都市鉱山からのレアメタル・レアアース回収技術に優れる。使用済み電子機器、自動車触媒などから貴金属・レアアースを効率的に回収。長年培った精製技術と環境配慮型プロセスで、資源循環型社会の構築に貢献。
レアアース関連銘柄の今後の展望と投資戦略まとめ
レアアースは今後、EV化・再エネ・半導体需要の拡大によって長期的な成長テーマとなる可能性が高い。日本国内でも、素材開発・リサイクル・商社・海洋資源など多角的なアプローチが進んでおり、各企業が異なる強みを発揮している。以下は、今回紹介した10社を業界別に整理したものだ。
素材・金属精錬系:住友金属鉱山(5713)、三菱マテリアル(5711)、DOWAホールディングス(5714)、松田産業(7456)
これらはレアアースを含む非鉄金属の採掘・精錬・再資源化を担う。上流から下流まで一貫した供給網を持つ点が強みで、EV・電子部品市場の拡大に伴う素材需要の恩恵を受けやすい。
化学・電子部品系:信越化学工業(4063)、TDK(6762)
レアアースを活用した高性能磁石や電子部品、磁気センサーを開発。高い技術力とグローバルシェアを誇り、次世代エネルギー・自動車・通信機器の成長とともに中長期の収益拡大が見込まれる。
商社・流通系:豊田通商(8015)、アルコニックス(3036)
鉱山出資や素材流通を通じてレアアースの安定供給を支える。資源価格変動リスクはあるものの、サプライチェーンのハブとして市場変化に柔軟に対応できる点が魅力だ。
技術開発・インフラ系:古河機械金属(5715)、三井海洋開発(6269)
採鉱技術や海底資源開発など、将来的なレアアース調達源を開拓する立場。技術的ハードルは高いが、国策テーマである「資源自立化」に直結する領域として注目度が増している。
総じて、レアアース関連銘柄は「安定供給 × 技術革新 × 脱中国依存」という3つのテーマの交点にある。短期的には資源価格や為替、地政学的リスクの影響を受けやすいが、長期では日本の産業基盤を支える戦略的分野だ。
特に、リサイクル技術を持つ企業や、環境負荷を抑えた抽出技術を開発する企業は、持続可能性(ESG)投資の観点からも評価が高まりやすい。
レアアースをめぐる国際競争が激化する中で、日本企業の技術と調達力を兼ね備えた企業群は、次の成長ステージに向けた重要なポジションを占めている。
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